不可逆

私は道を歩いている。いや、それはもはや道といっていいのか分からない。なぜならその道は前には進めるのに後ろには戻れないからである。終わりも見えなければ始まりも見えない。歩き始めた時点で私はどうしようもなかったのである。何度も戻れるはずのない通り過ぎてしまった道に思いを馳せた。どうせ後ろに戻れないのなら、もっと一歩一歩噛み締めて、踏みしめて、歩けばよかったとも思った。そして一番私を苦しめたのは、通り過ぎてしまった道のことを考えても現在は何も変わらない、と私自身が気づいていること、それでもなお、道に囚われてしまっていることである。
 それでも、これまで道を歩いてきて何もなかった訳ではない。ふと足を止めてしまうような自然があった。満月が輝いていた夜もあった。だが、それらが、私の感情に訴えかけるそれらが、道を通り過ぎてしまうことへの恐怖を増大させる。その自然も、満月も、先に進んでしまえば同じものは二度と目に入れることはできない。その事実が私にとってはひどく耐え難いのだ。
 私は歩き続ける。先に進み続けながら、過去に縛られ続ける。結局私は、くだらない人間なのだ。